伯樂雑記

政治やルールなどへの考えやぼやきを書きつけるブログです。

専門家はどこだ!

かつて砂漠だったこの土地は、今や大都市となった。専門家を重用する政策を行っており、技能に優れた者はあらゆる所にいる。

ある日のことだ。くたびれた服を来た男が街にあらわれた。真昼間だというのに、ランプを手にもっている。長旅だったようで、だいぶ息切れをしている。

「専門家はどこだ!」

男は叫んだ。道行く人に片っ端から尋ねている。「専門家はどこだ!どこにいるんだ!」男に怯えて、早々と逃げ去った人もいる。、

ある人は笑って言った。「この街は専門家ばかりだ。一体何の専門家を探しているんだ?」

「生き方だ。正しい生き方の専門家のことだ。私は如何に生きればいいのだ。」

ある人はさらに笑った。そして自分を医者だと名乗った。

「そうか、なら私に聞けばいい。私は医者だ。生き方の専門家だ。」

男は目を輝かせた。無造作な髭があるにも関わらず、まるで少年にも見えた。

「君か、君が専門家なのだな!私はどのように生きればいい?」

ある人は自信満々に答えた。

「まず、体調に気をつけることだ。そのためには適度な運動を行い、食べるものにも気配りがなくてはならない、そして病気に罹らないためには…」

  ある人は健康に必要なことを、全くもって正確に述べた。街行く人々は彼に敬意の眼差しを向けた。だが男は違った。男の瞳からは輝きが失われ、鼻筋には血管が浮き上がった。

「素人ではないか…」男が呟いた次の瞬間、ある人は鼻血を吹き出して地面に倒れた。

「お前は断じて正しい生き方の専門家などではない!誰が健康に生きる方法を教えろと言った!健康であること、長生きであることが、正しいことであるのは何故だ?正しい生き方を知らないなら、私の問いには口を噤んでもらおう!正しさにおいて、お前は素人に過ぎない!」

血のついた拳を震わせながら、男は唾を吐いて叫んだ。「さぁ、専門家はどこにいる!」

男の前には、多くの「専門家」があらわれた。物理、言語、法律、芸術…

全員男に殴り倒された。

「誰が運動法則について聞いた?誰が文法について聞いた?誰が刑罰について聞いた?誰が美しさについて聞いた?やはりそうだ、正しさについて、貴様らは素人ではないか!正しさの基になっている理由は何だ?何一つとして答えられていない!そもそも知らないのだ!」

もはや誰も男に近づこうとしなかった。「何も知らない」ことを自覚するよりも先に、そこには恐怖があった。

「専門家はどこだ?専門家はどこだ?専門家はどこだ?専門家はどこだ?」

たった一人、誰にも届かない音を発しながら、男は街から離れて荒野へと旅立った。